書きたいときに、書きたいことを。

センスと文章力の向上をめざして。

百年迷宮の睡魔、読了。

ミステリィというと講談社という勝手なイメージがあるのですが、幻冬舎から出ている『百年』シリーズ。

舞台は現代に比べて飛躍的に科学の進歩した近未来。ジャーナリストのサエバ・ミチルと相棒のウォーカロン(人型ロボット)ロイディが、他の社会から孤立し独自の文化、価値観(ある意味で国家)を有する土地で体験する非日常を描いた作品で、これは「女王の百年密室」に続く2巻目。

 

つい2,3か月前にその1巻目を読み終わり、あまりの面白さに次巻を購入したわけですが。今回読んだノベルスの刊行は2004年。シリーズものは最新刊の発売までの期間が長く感じますが、こうしてすぐに続きが読めてしまうのはとてもよかった。

どうして早く読まなかったんだという気持ちも強いのですが、そのおかげで連続でよめました。

 

前回のお話は機械の故障で偶然迷い込んだ、周りを高い壁に囲まれた小さな都市ルナティックシティが舞台で、そこが「密室」というタイトルにもつながっているのですが、今度の舞台は外部から一切の接触を拒絶した迷宮の島イルサンジャック。陸地からは橋が一本あるのみ。その中心にある女王の宮殿モンロゼは長い歴史のなかで砦であり教会であり、牢獄であり。まさしく「迷宮」という言葉がぴったり。

 

もう一方の「睡魔」これがすごかった。睡魔というより「眠り」という表現がしっくりくるのですが。死ぬことと生きていることをどう定義するのか。ルナティックシティでは死を「眠りにつく」と表現しその言葉に隠された秘密が判明するわけですが。それを越える科学技術、概念。それが前回判明したミチルとロイディの絆、関係性にも関わっていて驚愕でした。

 

そのロイディとの関係もさらに発展していて。しぐさや考えかたが非常に人間に近く、またジョークのセンスが上がっていてニヤニヤしてしまいました。その人間とウォーカロンの境界だとか、それぞれの存在としての尊厳だとか。それも「生と死」同様にとても複雑で。

 

ミチルが自問自答する形で答えのない(ように見える)ものについて深く考えをめぐらせていく描写を見ることで、自然と読者であるこちらもそれらについて考えてしまう。生きている実感だとか、心の底にある生きたいという想いだとか。

 

このシリーズのもうひとつの面白さは科学がもたらしてくれた現代との違いで、警察が一人の人間を覗いて残りはみなウォーカロンであるとか、博物館は閉館しないだとか。前回は建物や部屋として存在する図書館に驚いてる描写があったのですが、この世界だと「グーグル」みたいにゴーグルや端末でそのチャンネルにアクセスし閲覧するって感じなんですよね。SF映画もそうですが、近い将来本当にこうなりそうっていう範囲のことなので想像がしやすいです。ミチルにとっては旧式であっても、僕らからみるとまだ実現していない、あるいは最新式だったりするのがなんとも。

 

ミステリィなので事件は起き、また今回は首なし死体というショッキングなものなのですが、このシリーズは誰がどのように犯行に及んだのか、というよりも「なぜ」かというところに重点を置いていて。それが前述のようなミチルの自問とかかわってきて、とても深い物語になっていました。

 

考えながら読むので他の本よりも心なしか疲れる気がしますが、その反面とても「読んだー」って感覚に浸れる作品。もちろん読み終わってもなお自分の中で思いをめぐらすことになりますけどね。

 

ネタバレになるので内容には触れませんが「生きていく上で絶対に必要とは言えない知識(星座のことなど)」を『純粋な知識』と表現していたのは特に印象に残りました。

 

百年シリーズ最新刊にして三巻目「赤目姫の潮解」が2013年7月に刊行されているので、ノベルスになったらそちらも購入したいと思います。